星野源GEN HOSHINO

YELLOW MAGAZINE+
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意識と無意識のあいだを“創造”する
──『Gen』全曲解説インタビュー〈前編〉

昨年末、『第76回NHK紅白歌合戦』で京都・ニンテンドーミュージアムから披露した「創造」。ものづくりへの想いと様々なアイデアを詰め込んだ星野さんらしいパフォーマンスで、1年を締めくくりました。しかしながら、星野源のソロデビュー15周年イヤーは、まだ終わっていません! YM+では、これまでにも『Gen』についてインタビューを掲載してきましたが、今回はアルバムの全曲解説をお届けします。一曲一曲に込められた思考や感覚、制作の過程を改めてたどることで、『Gen』という作品の輪郭が、より立体的に立ち上がってくるはず。今この瞬間、最も近くにある到達点である『Gen』を今一度じっくりと聴き込みながら、本インタビューをお楽しみください(この記事は〈後編〉に続きます)。

  • PHOTOGRAPHY BY KOTORI KAWASHIMA
    INTERVIEW&TEXT BY YELLOW MAGAZINE+
創ることにも理由はない
  • 1 創造
    Lyrics, Music & Arrangement: Gen Hoshino

    Vocal, Chorus, Prophet-5, Jupiter-8, Rhodes, Matrix-12, Vibraphone, Handclap, Stomp, Programming: Gen Hoshino/Drums: Tom Tamada/Electric Bass: Hama Okamoto/Contrabass: Wataru Iga/Clavinet, Piano, Jupiter-8, Nord Electro: Hirotaka Sakurada/Electric Guitar, Chorus: Ryosuke Nagaoka/Surigane: Noriyasu Kawamura/Jupiter-8, Rhodes, Cowbell, Handclap, Programming: mabanua

    Co-Arrangement: mabanua/Chorus Arrangement: Ryosuke Nagaoka, Gen Hoshino/Analog Synthesizer Manipulator: Naoyuki Honzawa/Instrumental Technician: Satoshi Okada, Yuta Aikawa/Recorded by Shojiro Watanabe, Shigeharu Nakauchi, Gen Hoshino, mabanua/Mixed by Shojiro Watanabe/Original Game Sound ©️Nintendo
  • ◉
    前回のインタビューでもうかがいましたが、このアルバムの制作が「創造」から始まり、そして最終的に「創造」で終わった、という流れは、『Gen』という作品の本質を象徴しているエピソードだと思います。制作をスタートさせた2019年当時、星野さんはどんな想いのもとで、この曲「創造」をつくっていたのでしょうか?
  • 星野源(以下、星野)
    今までとは違うアプローチを突き詰めようとしていた、やる気に満ちていた時期の曲って感じですね。アーティストって、多かれ少なかれみんな、シーンの流行と自分のやりたいことのバランスをとりながら制作をしていると思うんですけど、「創造」はそうじゃなくて「好きなものをただやる。すべてを力技でぶち抜く」と、決めてつくったんです。「洋楽的」とか「邦楽的」みたいな部分とは違う場所で勝負したかったから、楽曲のここがフックで、ここがヴァースで……とかもなくて。どの部分をフックと思ってもらってもかまわないし、とにかくすべての面で壁をぶち抜こうと思ってつくった曲です。
  • ◉
    2021年にリリースしたバージョンから、アルバム収録にあたっては、ボーカルや楽器の聴こえ方のバランスが変わっていたりと様々な変更が施されていますが、中でもイントロ部分をリアレンジしたのはどのような理由からだったのでしょうか。
  • 星野
    とくに理由はないけど、イントロの英語の歌をなくして、サビのメロディをシンセで演奏したインストにしたいと思ってたんです。実際それに取りかかれたのがマスタリングの直前、最後の最後で。「よし、やるぞ」と思って、PCの前に座って鍵盤を弾き始めたら入れようと思っていた歌の主メロとは全然違うメロディが急に思い浮かんできちゃって……「あれ?」みたいな(笑)。一応、録ったあとに一晩寝かせたんですが、起きて聴いてみたらすごくよかったんで「これだ」となりました。5年前の曲ではあるけれど、改めて新鮮な気持ちで向き合ったことで、作曲スイッチが入った……みたいな感じだったんじゃないかな。
  • ◉
    「ぶち抜き方」を模索した末に生まれた「創造」が、最終的には無意識的に生まれたメロディの作曲で終わっている、というのはとても興味深いですよね。意識的に考え抜いた部分と、無意識のうちに立ち上がってくる部分、その“あわい”から生まれるものこそが、「創作」であり「創造」なのかもしれないな、と。
  • 星野
    〈何か創り出そうぜ〉って、歌詞から始まるじゃないですか。これは誰かに対する呼びかけではなくて、否応ない「そういうもの」って感覚なんです。自分の意思とは無関係に細胞が増えてしまうように、人は、生き物は、社会は、宇宙は、何かをつくり出してしまう。蔓性の植物が他のものに巻きついたりしながら太陽に向かって勝手に伸びていくことに理由はないじゃないですか。2025年につくったこの曲の新しいイントロもその歌詞が指し示すようなかたちで無意識的にできたし。この『Gen』というアルバムが「創造」から始まって「創造」で完成したというのは、象徴的だなって自分でも思いますね。
勝手に生えた名も無き植物
  • 2 Mad Hope (feat. Louis Cole, Sam Gendel,Sam Wilkes)
    Lyrics, Music: Gen Hoshino, Louis Cole/Arrangement: Gen Hoshino

    Vocal, Chorus, Prophet-5, DX7, OB-Xa, CZ-101, CZ-1, Programming: Gen Hoshino/Vocal, Chorus, Drums: Louis Cole/Electric Bass: Sam Wilkes/OB-Xa, Additional Bass: Daniel Crawford/Alto Sax: Sam Gendel/Electric Guitar: Ryosuke Nagaoka

    Chorus Arrangement: Ryosuke Nagaoka, Louis Cole, Gen Hoshino/Recorded by Shu Saida, Gen Hoshino, Louis Cole, Sam Gendel, Sam Wilkes/Mixed by Shojiro Watanabe
  • ◉
    「Mad Hope(feat. Louis Cole, Sam Gendel, Sam Wilkes)」は、アルバムリリース後に行われたツアー『Gen Hoshino presents MAD HOPE』のタイトルにもなっていますが、実際にライブでこの曲が披露されたときは、とても衝撃的でした。まさに“鬼気迫る”という言葉がぴったりのパフォーマンスで。
  • 星野
    この曲をつくっていたときに思い浮かべていた景色は、まさに今回のツアーで演奏しているときの風景なんです。ステージ上であまり動かずに念仏のように延々と歌っているんだけど、演奏や照明は気絶しそうなほどに目まぐるしいという。間奏のギターソロでは亮ちゃん(長岡亮介)とツインギターを弾いているというような。そういう具体的な演奏時のイメージが湧く曲も今までになかったので、自分の守備範囲が広がっていく感覚があってすごく楽しかったです。
  • ◉
    そもそもこの曲は、2023年にNetflixで配信がスタートしたトーク番組『LIGHTHOUSE』のテーマ曲でしたよね。配信当初はショートバージョンでしたが、まさか完成形がこんなかたちになるとは。Louis Cole、Sam Gendel、Sam Wilkesという、新世代ジャズ〜エクスペリメンタルシーンを代表する気鋭のミュージシャンたちを召喚して、こんな奇想に満ちた曲をつくれるのは世界広しといえど、星野さんぐらいでは……。
  • 星野
    この曲も「創造」と同じように「こうあるべき」を廃して、自分が興奮するかどうかだけを基準にしてつくった曲です。曲が始まってすぐに転調するし、Sam Gendelのサックスソロもポップスの定型でいうと出てくるポイントが早すぎる。でも、つくっているときはそんなこと気にしてもいなかった。あとから聴いて「あ、ここで転調してるわ」って気づいたぐらいで(笑)。聴いていて飽きないか、グッとくるかどうかだけを考えていましたね。
  • ◉
    ちなみに「Mad Hope」って、ご自身としてはどんな意味を込めた言葉なんですか?
  • 星野
    今、生きている世の中に対する不信感みたいなものですね。この曲のサウンドやリリックは「希望なんかまったくない」という気持ちを源泉に生まれているんです。でも、それを伝えたいとか主張したいみたいな気持ちはなくて。例えて言うなら、勝手に生えた植物のようなもので。植物って、よく見ると本当に変だと思うんですよ。絡まり合い方とかその“つくり”とか……美しいんだけど、無秩序でおぞましくもある。
ただ見えている景色や感触を描く
  • 3 Star
    Lyrics, Music & Arrangement: Gen Hoshino

    Vocal, Chorus, Bass, Programming: Gen Hoshino/Drums: Shun Ishiwaka/Piano: Hirotaka Sakurada/Electric Guitar: Ryosuke Nagaoka/Strings: Mio Strings/1st Violin: Mio, Osamu Iyoku, Kaoru Kuroki, Akane Irie/2nd Violin: Kiyo Kido, Makiko Tomokiyo, Yasuhiro Morimoto/Viola: Reiichi Tateizumi, Futaki Misato/Cello: Ayano Kasahara, Mari Masumoto

    Strings Arrangement: Gen Hoshino, Mio/Chorus Arrangement: Ryosuke Nagaoka, Gen Hoshino/Recorded by Shojiro Watanabe, Shu Saida, Gen Hoshino/Mixed by Shojiro Watanabe
  • ◉
    今のお話と、「Star」のリリックはつながる部分があると思うんですよ。星野さんのディスコグラフィーの中でも「Star」はある種の極北に達したものな気がしていて。死生や季節を描く視座が人間という枠を超えて、かなりの高次元に達しているようにすら思うんです。
  • 星野
    自分の世界の捉え方として人間も、植物も、動物も、無機物も境目がなくなってきているのかもしれないです。最近、物理学の本が好きで読んでいる影響もあるんだろうけれど、色々な本を読んでいると、結局全部なくなってしまうよな、って思うんですよね。「作者が死んでも芸術は永遠に残る」みたいな言葉はあるけれど、そんなことはなくて。何万年後かには人類自体が滅びてしまって、文明の痕跡が跡形もなくなくなってしまう可能性が高い。だから、すべてのものがフラットに同じに見えるんですよ。「Star」のリリックに関しては……えーと、なんでああなっちゃったんだろう。なんでああなったんですかね(笑)?
  • ◉
    (笑)。リスナーの方が疑問に思ってると思いますよ。「なんでこんなすごい歌詞が書けるの?!」って。
  • 星野
    自分の中の世界のビジョンが表現されているわけなんですけど、これも“なんかそうなった”んです。詩から浮かぶビジョンは自分の中では明確にあるんだけど、意味とか意図とかはない。伝えたいメッセージはなくて、この感触がこの詩なら表現できるとか、面白い、自分の目から世界はこう見えているというのをただ提示している感じです。
  • ◉
    サウンド面で言うと、R&Bやファンクの要素を感じさせるグルーヴではありつつも、『YELLOW DANCER』や『POP VIRUS』の頃とは、明らかに異なるアウトプットになっていますよね。よりソリッドに研ぎ澄まされた印象もありますし、特定のジャンルから解き放たれているようにも感じました。
  • 星野
    イントロができた瞬間に超イイなと思って、アルバムに絶対に入れようって決めたんです。ライブでやっていてもお客さんが「待ってました」って反応してくれる感じがあるので、ボツにしないでよかった。「Star」は元々70年代後半ぐらいのディスコをイメージしてつくり始めたんですけど、制作終盤で生音のレコーディングをしていくうちに急激にグルーヴが変わっていって、ディスコじゃなくなっていったんです。ドラムフィルをもっと入れたいと思って、レコーディングでは石若(駿)くんに色々試してもらって。石若くんは「もう同じようには弾けないです」って、そのときは言ってたんですけど、結局ライブで全然再現できてましたね(笑)。
狂っているのは、どちらかな
  • 4 Glitch
    Lyrics, Music & Arrangement: Gen Hoshino

    Vocal, Chorus, Beat Edit: Gen Hoshino/Drums: Louis Cole/Electric Bass: Hama Okamoto/Electric Piano: Hirotaka Sakurada/Gut Guitar: Ryosuke Nagaoka/Strings: Mio Strings/1st Violin: Mio, Kaoru Kuroki, Osamu Iyoku/2nd Violin: Yu Sugino, Akane Irie/Viola: Misato Futaki/Cello: Mari Masumoto

    Strings Arrangement: Gen Hoshino, Mio/Chorus Arrangement: Gen Hoshino/Recorded by Shu Saida, Gen Hoshino, Shigeharu Nakauchi/Mixed by Shojiro Watanabe
  • ◉
    「Glitch」は、「創造」と同時期に制作がスタートしたそうですね。
  • 星野
    そうですね。スーパーマリオブラザーズ35周年のテーマソングをつくるにあたって、何曲かつくってみた内の1曲です。『Gen』の中では「創造」と同じくらい、時間をかけて完成しました。なので、1曲の中で様々な時期や環境で録った音や制作した音が入り混じっているんです。前回のインタビューのときにも言いましたけど、今回のアルバムのサウンドのテーマは、すべての音を等しく扱うということだったので、それが最も如実に現れている曲と言えるかもしれないです。
  • ◉
    楽曲、アルバムの中で「すべての音を等しく扱う」ということのラディカルさを、星野さん自身はどのように捉えていますか?
  • 星野
    まず、世の中にそういうサウンドのものがないんですよね。例えば、古い質感で仕上げたいと思ったとしたら、全部の音素材をそちらに寄せていくしかない。なぜかと言うと、そうしないと楽曲として構築が難しいから。だからこそ、きれいな音も汚い音も新しい音も古い音も全部そのまま扱えたとしたら面白いだろうな、と思ったのが始まりですね。5年前にプリプロダクションで録った音も、15年前にLouis(Cole)がYouTubeにあげていた動画をサンプリングしたビートも、2025年に入ってスタジオで録ったボーカルやストリングスも、全部それぞれの音のまま1曲の中で成立するというのを狙ってつくっていきました。
  • ◉
    『Gen』のリリース当初は、とくにこの曲の歌詞をめぐって、リスナーの間で“謎解き”的な読み解きが盛んに行われていました。インターネットやゲームカルチャーへの言及が随所に散りばめられたリリックですが、個人的には、任天堂へのリスペクトやオマージュが込められていた「創造」と、どこか対になっているようにも感じていたのですが。
  • 星野
    謎解きやそういう楽しみ方も面白いですよね。書いた自分としては単純に今の自分の内面が表れている曲です。

    街を歩いていると、目に入るものすべてが「無駄」や「ゴミ」に見えるんですよ。現在進行形で朽ちていっているもの、もうその役割を終えてしまったものがそこらじゅうにある。新しい建物だって計画されたのは何10年も昔だったりするわけで、ピカピカしていても古臭く見える。世の中って様々なものが時の流れの中で、どんどん洗練されていくけど、その過程の中で忘れ去られたり、見えないようにマスクされるものがある。街とか、ネットのUIとか、プロダクトとかなんでも、きれいで洗練されたものを見ると、同時に全部がゴミでできてるように見える。それは自分の頭がおかしくなっているのか、それとも、狂っているのはどっちなんだろうね、っていう。
頭の中に思い描いたものを
  • 5 喜劇
    Lyrics, Music & Arrangement: Gen Hoshino

    Vocal, Chorus, Beats, Prophet-5,Piano, Rhodes, Minimoog, DX7, Emulator II, Programming: Gen Hoshino/Beats, Electric Bass, Rhodes, Sub 37, Vibraphone, Programming: mabanua/Electric Guitar, Chorus: Ryosuke Nagaoka

    Co-Arrangement: mabanua/Chorus Arrangement: Ryosuke Nagaoka/Recorded by Shojiro Waranabe, Shu Saida, Gen Hoshino, mabanua/Mixed by Shojiro Waranabe
  • ◉
    前回のインタビューで、「喜劇」は『Gen』において「自分の歌を書く」というアプローチの契機になった曲だったと仰っていましたね。
  • 星野
    「喜劇」は曲やサウンドに関しては、「いいものができたな」という感触があって、比較的スッとつくれた記憶があります。リリックについては、かなり悩みました。ただ時間をかけて向き合ったことで、「自分の歌を書いてもいいんだ」というところに、最終的にたどり着くことができた。その経験があったからこそ「喜劇」は、『Gen』に収録されている他の楽曲の歌詞を書いていくうえで、大きなきっかけになっているなと思います。
  • ◉
    「喜劇」はアルバムの中で、次曲の「2(feat. Lee Youngji)」と続けて聴くことで、ヒップホップ的なグルーヴの力強さがより際立って感じられました。『Gen』では、ビートのつくり方そのものが、これまでとは一新された印象もありますが、ご自身としては、ビートとの向き合い方にどのような変化があったと感じていますか。
  • 星野
    DAWを導入したことで、制作をすべて自分ひとりで完結できるようになったので、結果として、ビートだけに限らず自分が目指しているサウンドをよりダイレクトにかたちにできるようになりました。これまでにつくってきた音楽の中にも、ヒップホップの要素はあったし、ジャンル的にもかなり幅のある楽曲をつくってきたけど、ただそれを前面に出すには難しい表現手法でずっとやってきていた。でも今は、どんな音楽でもひとりでつくれるようになってきているので。『Gen』は、自分の頭の中で思い描いたものをそのまま音として直接的に表現できた。

    でも今回、アルバムが完成して改めて取材を受けたり、様々な感想をもらう中で思ったのは、シングルとしてすでに発表していた曲が、じつはちゃんと受け取られていなかったんだな、ということなんです。「既発曲はこういう曲だったのかとやっとわかった」と言われて、そうかあと残念な気持ちになりました。でも同時に、やっぱり今でも「アルバム」というかたちでまとめて提示することで、アーティストのアティチュードみたいなものがやっと伝わるんだな、ということも改めて実感しました。
私たちが集まれば無敵
  • 6 2 (feat. Lee Youngji)
    Lyrics, Music: Gen Hoshino, Lee Youngji/Arrangement: Gen Hoshino

    Vocal, Chorus, Prophet-5, Bass, Minimoog, Synthesizer, Programming: Gen Hoshino/Rap, Vocal, Chorus: Lee Youngji/Drums: Steve McKie/Bass: Daniel Crawford

    Chorus Arrangement: Gen Hoshino/Recorded by Shu Saida, Gen Hoshino, Vidal Davis, MoZ/Mixed by Shojiro Watanabe
  • ◉
    「2 (feat. Lee Youngji)」は、どのようなプロセスを経て完成していった楽曲なのでしょうか? 制作の出発点について教えてください。
  • 星野
    2021年から2022年にかけて、継続的に作業をしていた曲の“かけら”のようなものがいくつかあって。その内のひとつが、この曲のAメロにあたるコード進行やシンセのメロディでした。フィラデルフィアにある(Jazzy)Jeffのスタジオに遊びに行ったとき、そこにいたミュージシャンたちと、その“かけら”をベースにセッションをしたんです。「ドラム叩いてみて」とか「シンセベース弾いてみて」とか、そんな感じでほんの数小節を録音しました。その音源を基にして、そこから自分ひとりでどんどん楽曲を広げていった感じです。
  • ◉
    『Gen』の楽曲には、Jazzy Jeffさんやその周辺のミュージシャンが数多く参加していますが、Jeffさんとの作業は、アルバム制作全体において、どのような影響を与えたと感じていますか?
  • 星野
    あの頃は、ちょうどDAWを使い始めて間もない時期だったので、打ち込みについて本当に色々なヒントを教えてもらいました。Jeffたちが使っているDAWと、自分が使っているものが同じだったこともあって、わからないことがあれば何でも質問して。「源もこれ入れたほうがいいよ!」っていう感じで、プラグインを紹介してもらったり、Jeffが普段遣いしている音源をシェアしてもらったりもしました。あれは本当に勉強になりましたね。ただ、そこからそれを自分のものにするまでには、2年くらいかかっていて。「あのとき、Jeffが言っていたのは、こういうことだったのか!」と、時間差でわかってくる感覚がありました。
  • ◉
    改めてうかがいたいのですが、そもそもこの楽曲でLee Youngjiさんに客演をオファーした理由は、なぜだったのでしょうか。セルフボーストやエンパワメントを感じさせるヒップホップマナーなリリックは、Youngjiさんとのコラボレーションによって立ち上がってきたものだったのでしょうか。
  • 星野
    まず楽曲ができて、そこから「この曲には誰に参加してもらうのがいいか」を考えました。Youngjiは、とても繊細な一面がある一方で、ものすごくパワフルでもある。その二面性というか、裏と表みたいなところをこの曲では出してほしいと思って、手紙を書いてオファーしたんです。そしたらすぐに快諾してくれて。そこから改めて、自分のリリックの内容を考えていきました。そのとき素直に「私たち、ふたりが集まれば無敵ですよね」っていうのをテーマにしようと思ったって感じですね。実際、韓国でのライブでふたりで共演したときも最強だなと感じて、やっていてめちゃくちゃ楽しかったですね。
めんどくさいけど楽しい
  • 7 Melody
    Lyrics, Music & Arrangement: Gen Hoshino

    Vocal, Chorus, Beats, DX7, Prophet-5, OB-Xa, CZ-101, Acoustic Guitar, Programming: Gen Hoshino/Electric Bass: mabanua/Acoustic Guitar: Ryosuke Nagaoka/Percussions: Taikimen

    Chorus Arrangement: Gen Hoshino/Recorded by Shu Saida, Gen Hoshino/Mixed by Shojiro Watanabe
  • ◉
    星野さんのルーツに、エキゾチカやモンドミュージック、ブラジリアンやラテン音楽、ダブといった影響があることは以前から知っていたのですが、「Melody」を初めて聴いたときに、そうした音楽的背景が、今このようなかたちで楽曲として昇華されるのか、と唸った記憶があります。
  • 星野
    なんかこの曲は色々入ってますよね。でも意識はしてなくて、できたらそういう要素を感じる曲だったって感じですね。SAKEROCKの頃から、そういう音楽は、体の中に自然と入っていたので、この曲では、それが自然に出てきた感じで。出来上がったあとから聴いた人にそんなふうに言われて、「ああ、たしかにそうだね」っていう。
  • ◉
    ということは、そもそもの楽曲の着想点は違うところにあったということですかね。
  • 星野
    この曲をつくり始めた日は真夏で、太陽が燦々と照っていて、とにかく暑い日だったんですよ。その季節の印象を、そのまま曲に落とし込みたいと思ってつくった曲でした。最初はシンセのフレーズからつくり始めて──あれ、じつはアルペジエーターを使って組んだものじゃないんです。手弾きで一音ずつ打ち込んでいて。だから、すごく揺れがある(笑)。アルペジエーターだったら、コードを押さえれば全部勝手にやってくれるんですけど、あえて、かなりめんどくさいやり方で打ち込んでいて。でも、それが楽しかったんですよね。「めんどくさいことやってるなあ、でも、楽しいなあ」とか思いながら作業していたら、気づいたら一日で最後までできていた、という感じでした。
  • ◉
    〈原子(アトム)の海原に立って〉から始まる部分の展開が、凄まじいですよね。メロディの動きもコード進行も、リリックも、まったく予想のつかないところへ連れていかれるような感覚がありました。
  • 星野
    曲が最後まで完成したあとに、もうひと展開つくりたいなと思って、あとからつくったんですけど。あの部分は自分でもすごく好きです。とくに〈海原に立って〉の「て」の部分のメロディの着地とコードの連なりは、我ながら気に入ってます。
いい加減なものとしての、愛
  • 8 不思議
    Lyrics, Music & Arrangement: Gen Hoshino

    Vocal, Chorus, Minimoog, Prophet-5, DX7, Piano, Programming: Gen Hoshino/Drums: Shun Ishiwaka/Electric Bass: Hama Okamoto/DX7, Juno-6, Piano, Rhodes: Hirotaka Sakurada/Electric Guitar, Chorus: Ryosuke Nagaoka/Minimoog, Prophet-5, Programming: mabanua

    Co-Arrangement: mabanua/Chorus Arrangement: Ryosuke Nagaoka, Gen Hoshino/Analog Synthesizer Manipulator: Naoyuki Honzawa/Instrumental Technician: Satoshi Okada/Recorded by Shojiro Watanabe, Shigeharu Nakauchi, Gen Hoshino, mabanua/Mixed by Shojiro Watanabe
  • ◉
    先ほど「Mad Hope(feat. Louis Cole, Sam Gendel, Sam Wilkes)」に関するお話にもありましたが、『Gen』というアルバムでは、世の中に対する絶望や、「希望は不要である」という感覚が繰り返し描かれているように感じます。そんな作品の中で、「不思議」という楽曲では「愛」が歌われている。そのコントラストが、この曲を『Gen』というアルバムの中で、より一層輝かせているように思いました。
  • 星野
    まったく違う場所で育ってきたふたりが、なぜか惹かれあって、一緒に暮らしたり、最終的には同じお墓に入ったりする。それって、とにかく不思議だし、すごく面白いことだなって思うんですよね。一方で、社会から暗黙の内に伝えられてきたもの、たとえば教科書とか、地域の区民だよりとかの中でイラストで描かれる「家族」って、ほとんど同じものでしたよね。父と母の真ん中に子どもとペットがいて、その後ろにはおじいちゃんとおばあちゃんが微笑んでいる的な。結婚して子どもが生まれて、という流れが、当たり前のように描かれている。「そういうものなんだ」って思いながら人は育つ。愛とか恋みたいなものが、社会に強制されているような感覚がある。

    でも、人は世の中がどうであろうと理由はよくわからないけど一緒になっちゃったり、なぜか惹かれあったりしてしまう。「なんだかよくわかんないけど、こうなってしまった」みたいなものの方が自分にとっての愛のかたちに近い。「世の中がなんと言おうが、どうあろうが関係ない」状況を詩が表現している。自分から見えている景色として、世の中をどうしても絶望的に描いてしまうし、それは自分がそう感じているからなんですけど、その中で「外側にはいろんな絶望があるけれど、でも、ここはここだよね」という感覚ですね。
  • ◉
    本来的に「愛」って、もっとパーソナルで自然な“今、ここ”にある感情なはずなのに、いつの間にか資本主義や社会通念といった、大きな枠組みに絡め取られてしまうことも多いですよね。
  • 星野
    そうそう。でも愛って、もう少しいい加減なものなんじゃないかな、っていう気がしていて。キラキラしていなくてもいいし、生産性がなくてもいい。幸せそうに見えなくてもいいし、もちろん全部その逆でもいい。それぞれの愛がある。いい加減だから素晴らしいということでもなくて、ただそういうものであるということ。でも、愛があることで、異常に輝く瞬間があったり、ふっと笑顔になれたりする。そういう不思議なものなんじゃないかな、って思いますね。
  • OCT
    2026